書くことは、呼吸をすること。
ー碧月はるーHaru Aotsuki
海のことば、空のいろ

【コントラスト弱めの日常~ちゃんとした大人になれない】

昔から、よく転ぶ子どもだった。おそらく、運動神経を母のお腹の中に置き忘れてきたのだと思う。何の障害物もない平坦な道でも転ぶくらいなので、坂道や凸凹道ではさらにその確率は上がる。

先日も、派手に転んだ。「すってんころりん」という効果音がしっくりくる転び方だった。しかも、場所は川の中。すってんころりんの結果、私は見事、全身びしょ濡れになった。川もすきだし、泳ぐのもすきだ。しかしこの日の私は、川で泳ぐ装備ではなかった。普通の服に、普通の靴、挙げ句に肩掛けカバンには、カードもお金もスマホも入っていた。すべて漏れなく水没である。(すぐに水から引き上げたため、幸いにもスマホは壊れずに済んだ)

とても暑い日だったので、背中まで、何なら下着までずぶ濡れになった格好は、涼しくて快適だった。しかし、前述した通り、この日の私は装備不足だった。もっといえば、「泳ぐつもりはなかった」。よって、ろくな着替えすら持参していなかった。

「お前はどこでもよく転ぶんだから、着替えは常に持ち歩いとけよ」

相方のもっともな台詞に「うるさいな」と返しながら、途方に暮れた。なにせ下着の替えさえ持ってきていないのだ。一体このびしょ濡れの状態で、この後どうやって車に乗り込めばいいのか。そもそもこの体では、コンビニすら入れない。それじゃあトイレにも行けないではないか。

ああでもない、こうでもないと言い合いながら、結局、唯一持参していたノースリーブのワンピースに着替え、相方のパーカーを羽織る格好に落ち着いた。下着に関しては突っ込まないでほしい。いい年の大人がノーパンで過ごしましたなんて、口が裂けても言えない。(もしもこのエッセイをシェアしてくれる心やさしい方がいるなら、この部分だけは引用しないでほしい。お願いだから)

「お前って、期待を裏切らないよな」
「人が転ぶことを期待するな」
「いやもう、尊敬するわ。ここまでくると見事だわ」
「うるさいんだよ」

決して夫婦漫才を目指しているわけではない。基本的には真面目に生きているし、遊びも仕事も真剣に向き合う主義だ。しかし、私たちの会話は得てしてこうなる。それもこれも、私が2日に1回は転ぶからである。尚且つ、どこでも転ぶからである。お笑い芸人ならば、こんなにおいしい習性はないと思う。しかし私は、物書きである。どんなに転んでも、ただただ痛いだけ。もしくは意図せず、びしょ濡れになるだけ。転び損。せいぜい相方が腹を抱えて笑うくらいだ。こんな才能要らない。どうせなら、もっと文才をください。

ABOUT ME
碧月はる
エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。『DRESS』『BadCats Weekly』等連載多数。その他メディア、noteにてコラム、インタビュー記事、小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。