書くことは、呼吸をすること。
ー碧月はるーHaru Aotsuki
海のことば、空のいろ

【新しい記憶の欠片〜私の家族】

サイレンの音が、遠くから聞こえていた。あの音を耳にすると、嫌でも昔を思い出す。
赤い点滅灯が、白い車体を照らす様を思い浮かべた。実際に肉眼で確認はしていない。私の目はうまく開かず、手足に至っては、さらにうまく動かなかった。

ピーポー、ピーポー、ピーポー、ピーポー。
近づいてきた音は、私の住むアパートの前で静止した。

ずいぶん前から、胃の痛みを自覚していた。波のある痛みは、押し寄せるたびに苦痛をもたらし、引くたびに油断を生んだ。あまりの痛さに蹲り、呼吸が乱れることもしばしばあった。でも、原因はストレスであろうと検討がついていたし、どうせまた胃炎でも起こしているんだろうと、たかを括っていた。

私の身体は、良くも悪くも痛みに対する耐性が強い。
“まだ、大丈夫”
本来我慢すべきではない苦痛や痛みを長年受け続けた弊害からか、「大丈夫」と判断するラインが、どうやら私は少しばかり、狂っているらしい。

ABOUT ME
碧月はる
エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。『DRESS』『BadCats Weekly』等連載多数。その他メディア、noteにてコラム、インタビュー記事、小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。