サイレンの音が、遠くから聞こえていた。あの音を耳にすると、嫌でも昔を思い出す。
赤い点滅灯が、白い車体を照らす様を思い浮かべた。実際に肉眼で確認はしていない。私の目はうまく開かず、手足に至っては、さらにうまく動かなかった。
ピーポー、ピーポー、ピーポー、ピーポー。
近づいてきた音は、私の住むアパートの前で静止した。
ずいぶん前から、胃の痛みを自覚していた。波のある痛みは、押し寄せるたびに苦痛をもたらし、引くたびに油断を生んだ。あまりの痛さに蹲り、呼吸が乱れることもしばしばあった。でも、原因はストレスであろうと検討がついていたし、どうせまた胃炎でも起こしているんだろうと、たかを括っていた。
私の身体は、良くも悪くも痛みに対する耐性が強い。
“まだ、大丈夫”
本来我慢すべきではない苦痛や痛みを長年受け続けた弊害からか、「大丈夫」と判断するラインが、どうやら私は少しばかり、狂っているらしい。