書くことは、呼吸をすること。
ー碧月はるーHaru Aotsuki
海のことば、空のいろ

【君たちが教えてくれたこと~変えられない針の行方】

この手を離したくないと、何度願ったかわからない。まだまだ小さくて、でも、きっとすぐに私を追い抜いてしまう、柔らかな手のひら。どんなに心を傍に置いても、物理的に離れていたら与えられないものもある。キスやハグ、手作りの料理、一緒に笑い転げる時間、そして、思う存分泣けるようにそっと揺れながら抱きかかえるひと時。

足りない、足りない、足りない。

楽しい時間をただただ味わえばいいのだと頭ではわかっている。でも、いつだって指折り数えてしまう。「あと何日一緒にいられるか」を。「あと何日で帰ってしまうのか」を。

自分の足で立てない人間が、誰のことも守れるわけがないと思っていた。だから一旦、手を離した。自分の足で立つために、生活を立て直すために。環境を整えたら必ず……そう心に決めていたから、部屋を借りるときもワンルームではなく、2DKを選んだ。でも、現実はそう甘くはなかった。

タイムリープものの映画やアニメを観るたびに思う。時間を巻き戻せるなら、あのときに帰れるのなら、と。でも、時間は前にしか進まない。過去に巻き戻るのは、人の気持ちだけだ。時間も、生活も、状況も、未来に向けてのみ針は進む。人生は、やり直せない。今ここから、この瞬間からのスタートラインしか用意されていない。

13年間、必死に手のひらをつないでいた悪戦苦闘の毎日は、たった一度離してしまった途端、「なかったもの」にされた。息子たちの中にどんなにその痕跡が残っていようとも、周囲の大人たちは、それ以外のものに目を向ける。例えば、私の病名とか、障害年金を受給している現状とか、父親と比較した経済状況とか、そういった「わかりやすい指標」が、判断材料になる。

ABOUT ME
碧月はる
エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。『DRESS』『BadCats Weekly』等連載多数。その他メディア、noteにてコラム、インタビュー記事、小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。