書くことは、呼吸をすること。
ー碧月はるーHaru Aotsuki
海のことば、空のいろ

【私は、誰?】

およそ3年前、匿名で自身の過去を明かした。此処、noteというインターネット上にあるプラットフォームで。幼馴染以外には、決して打ち明けなかった過去。元夫にさえも、すべては話せなかった。話したらどうなるか、どんな反応が返ってくるのか、そこに関して、どうしてもポジティブな想像ができなかった。

はじめて過去を公開した日、公開ボタンを押す手は震え、呼吸は激しく乱れた。怖かった。それまで築いてきた関係性が壊れてしまうこと、後ろ指をさされること、あらゆる最悪の想定が脳内を駆け巡った。でも、結果として私を待っていたのは、温かい言葉と包容であった。ネット上のテキストコミュニケーションなので、実際にハグをされたわけではない。しかし、幾人もの友人が、私を言葉でハグしてくれた。見知らぬ誰かからは、罵詈雑言を投げつけられることもあったが、”見知らぬ誰か”だったことが、救いだった。

3年という月日は、私にとって決して短いものではなかった。その間、プライベートでもさまざまな出来事があった。別居、離婚、子どもたちとの別離。悪化する後遺症に悩まされ、何度も向こう側にいくことを夢見た。そんな日々の中で、私の過去を知りながらも変わらぬ態度で接してくれる友人たちの存在は、大袈裟ではなく命綱だった。

「お前は悪くない」

過去、私にそう言ってくれたのは、事実を知るただひとりの幼馴染だけであった。しかし、此処で書くようになり、同じ台詞をかけてくれる友人が増えた。性的虐待を受けてきた私は、父の呪縛の言葉に長年苦しめられてきた。

「お前が悪いんだ。お前がこうさせたんだ」

何度も「そうじゃない」と思おうとした。でも、そのたびに父の声が背後から蘇った。耳を塞いでも、目を瞑っても、消えない残像が脳内でリピート再生される。それは大抵、夜だった。おそらく、父が私の上に乗る時間帯が、骨の髄まで染み込んだ結果なのだと思う。そういう夜が辛かった。でも、うずくまるたび、大勢の人が言ってくれた。

「はるさんは、悪くないよ」

表で書きはじめて2年を過ぎた頃から、ようやく少しずつ呪縛が解けはじめた。「自分は悪くない」と心から思えるようになり、記憶の中の両親をちゃんと憎めるまでに回復した。40歳を迎えた日、自身の中で大きな区切りがついた。これからは、自分の存在を後ろめたく思うのはやめようと決めた。性虐待を含む性被害のすべてにおいて、責めを負うべきは加害者のみである。そんな当たり前のことが、やっと実感として腹に落ちた。

ABOUT ME
碧月はる
エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。『DRESS』『BadCats Weekly』等連載多数。その他メディア、noteにてコラム、インタビュー記事、小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。