見たい景色があった。この目に、体に、焼き付けたい風景があった。
ドライブの何がいいって、スマホを触れないことだ。運転中は、運転しかできない。目に入るものは、流れ行く景色のみ。それでいい。それがいい。休みたい。頭を空っぽにしたい。誰にも何も押しつけられたくない。今の私には、多すぎる情報や感情を正しく扱う力が残っていない。
目指した行き先は、とある海岸線。海に着いた瞬間、心がぐうっと背伸びをした。空が広い。それだけで、私はひどく満足する。
テトラポットに、一羽の海鳥が止まっていた。時々首を傾げながらも、その鳥はそこから動こうとはしなかった。「飛べない」んじゃない。「飛ばない」と決めて、確固たる意志を持って一点に留まっている。その様は、静かに私の胸を打った。
私は、「飛びたい」のだろうか。「留まりたい」のだろうか。それとも、「飛びたいけど怖いから留まっている」のだろうか。”自分のことは自分が一番よくわかっている”なんて、そんなのは嘘だ。自分という人間が、この世でもっとも不可解で扱いづらい。けれど、決して切り離すわけにはいかないから、途方もなく苦しい。
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